2022年4月4日より東京証券取引所において、新市場がスタートを切り、同時にマーケットの名称が変わりました
今回の市場再編の狙いは、各市場区分のコンセプトを明確にして投資家にとって利便性の高い市場にすること、そして上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けになることでした
スタートから既に1ヵ月程度が経っていますが、大きな混乱は見られません
しかし、「名称変更」という表現を使ってしまうように、狙い通りの変化は感じられないように思います
これが期待通りなのか?
それともまだまだこれからなのか?
新しい市場のそれぞれのコンセプトを理解しながら、現状とのギャップを検証してみたいと思います
市場再編の概要
今回の市場再編を図で表すと以下のようになります
旧市場においては、市場第一部には大企業が所属し、市場第二部はそれよりやや小さめ企業向け
マザーズとJASDAQは、いずれも新興企業向け
なんとなくコンセプトはあるものの、それぞれの違いは曖昧であり、重複感もありました
また、新規上場基準よりも上場廃止基準が大幅に低かったり、市場間の移行基準も緩和されていたりして、上場後に積極的な企業価値向上を促す仕組みになっていないという状況でした
そこで市場再編ということに至ったようです
≪新市場のコンセプト≫ (出所:JPX Webサイト)
◇プライム市場
多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
◇スタンダード市場
公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
◇グロース市場
高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場
≪上場基準≫ (出所:JPX Webサイト)
◇プライム市場 | 考え方・狙い |
流動性 | 多様な機関投資家が安⼼して投資対象とすることができる潤沢な流動性の基礎を備えた銘柄を選定する |
ガバナンス | 上場会社と機関投資家との間の建設的な対話の実効性を担保する基盤のある銘柄を選定する |
経営成績 財政状態 | 安定的かつ優れた収益基盤・財政状態を有する銘柄を選定する |
※プライム=厳選された市場というイメージに相応しいカテゴリーに成長してほしいものです
◇スタンダード市場 | 考え方・狙い |
流動性 | ⼀般投資者が円滑に売買を⾏うことができる適切な流動性の基礎を備えた銘柄を選定する |
ガバナンス | 持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現のための基本的なガバナンス⽔準にある銘柄を選定する |
経営成績 財政状態 | 安定的な収益基盤・財政状態を有する銘柄を選定する |
※他の市場の中間的な位置づけだけに、どっちにも動けると同時に、どっちつかずになるのが心配です
◇グロース市場 | 考え方・狙い |
事業計画 | ⾼い成⻑可能性を実現するための事業計画を有し、投資者の適切な投資判断が可能な銘柄を選定する |
流動性 | ⼀般投資者の投資対象となりうる最低限の流動性の基 礎を備えた銘柄を選定する |
ガバナンス | 事業規模、成⻑段階を踏まえた適切なガバナンス⽔準にある銘柄を選定する |
※現状の経営成績・財政状態ではなく、将来の事業計画が基準に設定されているところが成長期待の表れでしょう
狙いと現状のギャップ(その①)
コンセプトが曖昧という問題に対しては、新市場におけるコンセプトを明示した時点で問題解決に至ったのかもしれません
いずれの市場においても、上場基準に高水準の「流動性」が含まれており、各企業は株主層を広げるために個人向けのIRに力を入れると予想されています
これにより利便性が高まるということになりますが、本当にそうなるのか、これから向かえる企業決算に注目してみたいと思います
狙いと現状のギャップ(その②)
上場基準が変更され、これにより企業価値の向上が図られることになることが想定されますが、一方でプライム市場においては上場基準を満たすことができなかった企業が295社あり、全体の16%も占めています
経過措置がとられていますが、いつまでに条件をクリアしないといけないのかという期限も曖昧という点では、いささか生ぬるくも感じられます
日本的な結末
東証再編という謳い文句の割には大きな変化はまだ見られません
現状を大きく変えたくない
変えることで文句を言われたくない、責任を取りたくない
みんながハッピーになれば良い
しかし誰もハッピーにはなれない
誰も切り捨てたくない
その結果、企業が淘汰されることはなく、結果として成長企業が生まれない
このような日本らしい結末が、日本の現状の国力につながっているように思い、残念でなりません
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